静岡県・浜松市のオーダーメイド靴工房

【和靴】靴にまつわる3つのストーリー

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(1)花嫁からの贈り物

ある日、若い女性のお客様が来店されました。
お客様の多くを男性で占める当店にとっては、異例のことです。
早速テーブルにお通ししてお話を伺うと、その第一声はとても意外なものでした。

「足の不自由な父のために、靴を創っていただけますか?」

そのお客様は、そうおっしゃったのです。

ご病気で足が不自由になったお父様のために、革靴を創ってプレゼントしたいというご希望でした。
「私、もうすぐ結婚するのです。その結婚式で、私は父に心から感謝の気持ちを伝えたいのです」

ほとんどの場合歩くのが不自由になると、靴はスニーカーばかりになります。
履かせやすく脱がせやすいし、動きやすいからです。でも、どうしてもフォーマルウエアには似合わない。
ダンディだったお父様が、気後れすることなく心から結婚式を楽しんでほしい。
そのために、足が不自由でも履きやすくて、タキシードにも似合う革靴が欲しいとおっしゃるのです。

私は、そのご依頼を引き受けさせていただきました。

完成した靴

後日、お父様の足を採寸と状態を確認させていただきました。
早速靴作りのスタートです。
お父様のお体を考えると、脱着のしやすさは絶対条件です。
プレーントゥのデザインをベースに、前をマジックテープで
ワンタッチで開けられるスタイルを採用。
足を入れる時が一番大変という点を考慮して、
踵を引き上げられるように工夫を施しました。
製法は圧着式を採用することにしました。
服装にマッチするようにカラーはブラック。

それから3か月。完成した靴をお渡ししました。
靴を見た瞬間、お客様はうれしそうに微笑まれました。
「父もきっと喜んでくれます。ありがとうございました」
そうおっしゃってくださったお客様を見て、私も心からうれしくなりました。

それからしばらくして、心に残る結婚式になったとお話をうかがいました。
二度とない人生の瞬間を、大切に心に刻むために必要とされる靴。
たとえ履く機会が少なくても、見るたびに暖かな思い出に浸ることが出来る靴。

今回、このお客様との出会いで、この靴を作らせていただけた一人の靴職人としての幸運と、靴作りの新たな可能性を見出すことができたと感じた経験でした。

(2)最初のお客様

名古屋に新しいショップをオープンした日のことでした。

本当に偶然立ち寄ったという風情で、お客様が来店されました。非常にお洒落な紳士でいらっしゃいました。
「友人から話を聞いてね。興味があったので、寄らせてもらいました」
お客様はそうおっしゃると、ぐるりと店内を見てまわられました。
展示させていただいている靴を一つ一つ手にとってご覧になってから、
「じゃあ、一足創っていただこうか」とおっしゃったのです。
名古屋店第一号のお客様との出会いは、こうした始まりました。

すぐに接客テーブルにお通しして、デザインのご相談に入らせていただきました。
すると、これまでにベルルッティなどの超有名ブランドでオーダーメイド靴をご注文されているとのこと。
来店される直前には、有名ブランドでの採寸の順番が、有名ニュースキャスターのすぐ後ろだったこと、
某有名ファッション雑誌の創刊にも関わってきたことなどを、お話くださいました。
このお客様は、本当に長い間、オーダーメイドの靴をご愛用され続けているお客様だったのです。
打合せをさせていただきながら私は、緊張感と共にやりがいを感じて心が奮い立つように感じていました。

私にとっても、新しい店でお迎えした最初のお客様です。
特別な想いを込めて一針、一針縫わせていただいたことを、今でもはっきりと覚えています。

数ヵ月後、完成した靴をお渡しする日がやってきました。
ご来店いただいたお客様の前に靴をお出しした時、なにか特別な緊張を感じていました。
「私の靴を、気に入っていただけるだろうか」

お客様は完成した靴を手に取りじっくりとご覧になって、こうおっしゃいました。
「本当に美しい靴だね。履くのがもったいないくらいだよ」

しかし、私は、こう答えました。
「靴は実用性も兼ねていないといけませんので、ぜひ足を入れてみてください。」

そして、試着した瞬間、
「いいね。思った通り、すごくピッタリだよ。このままこの靴を履いて帰ってもいいかな?」
「もちろんです。」
その瞬間、私は心から靴職人としての喜びを実感していました。
このお店最初のお客様からいただいたこれらのお言葉とそのやりとりは、今でも私の宝物なのです

(3)社会人の一歩を記す靴

その日、お店のドアを開けて入ってこられたのは、まさに紳士という表現がふさわしい男性でした。
「いらっしゃいませ」とお声をかけてふと気が付くと、男性の後ろには若い女性が続いていらっしゃいました。
「今日は、娘に新しい靴を創ってもらいたくて来たんだ」
こちらがご用を伺う前に、お父様はそうおっしゃいました。

お嬢様は大学をご卒業され、来春晴れて新社会人になられるとのこと。
「就職プレゼントとして、靴を創ってあげることにしたんだよ」と嬉しそうにおっしゃいました。
早速テーブルにお通しして、デザインのご相談に入りました。
タイトスカートでもパンツスーツでもマッチするように、またトラディショナルなデザインでも合わせられるようにカラーはブラックを採用。
インソールの鮮やかなレッドカラーや、足首のベルト、長めのつま先を飾るデザインなど、シックな中にも、
キュートさを加えて、お嬢様の個性を引き出すデザインをご提案いたしました。
女性であること、また足の筋力を考慮し、今回は圧着製法で作らせていただくことにいたしました。

打合せをさせていただく間、お父様は様々なことをお話くださいました。
新入社員は、とにかく歩くことが仕事。
身だしなみでも、靴が最も大切なポイントになる。
何度でも手を入れて履き続けられる良い靴は、必ず社会人としての自分の味方になってくれる。
社会人の大先輩としてのお父様の言葉は、一つ一つにお嬢様に対する愛情にあふれていました。

そして、打合せも終わりに近づき、テーブルを立つ前にお父様はこうおっしゃったのです。
社会人としての第一歩を踏み出す娘に、ぜひ靴を贈りたかった。
そして、1人の社会人として旅立っていく娘に対して、これが父親としてできる最後のことだとも。
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